鳥寄 杉子(トリヨセ スギコ)さんは、通信販売やインターネットショッピングが大好きです。
休日は、あっちこっちの通販雑誌を読んだり、ショッピングサイトの検索に夢中です。
しかし、そんな鳥寄さんの通販生活に、忍び寄る悪の手が…
ある日、鳥寄さんの家に、宅急便が届きました。
送り主の名前<BI・プロモーション・かむぱにい>には見覚えはなかったのですが、鳥寄さんはしょっちゅう通販をしていたので、いちいちどこの会社から買ったものかは覚えていないこともあり、なんの疑問もなく受け取りました。
そして、宅急便のダンボール箱を開けてみたところ、「スーパー美顔エックス・ハイパー・キャンプバージョン」なる、エステ器具と思われる機械と、「美肌プリンプリン・エクストラ・ディメンション・コラーゲン・TA・MA・GO・HA・DA」なる、プリンが入っていました。
鳥寄さんは、こんなものは頼んでいない、っとは思いつつも、先日できたニキビをキレイにできないかな、ツルツルタマゴ肌になりたいな、っとの思いから、ちょっとだけ使ってみることにしました。
鳥寄さんが「スーパー美顔エックス・ハイパー・キャンプバージョン」を使おうと思い、説明書を探していると、一枚の紙切れが出てきました。
その紙切れにはこんなことが書いてありました。
「この度は、<スーパー美顔エックス・ハイパー・キャンプバージョン>及び、<美肌プリンプリン・エクストラ・ディメンション・コラーゲン・TA・MA・GO・HA・DA>を購入いただきありがとうございます。 <スーパー美顔エックス・ハイパー・キャンプバージョン>は、箱を開封し、光を感知した瞬間から感光バッテリーの消費が開始され、それとともにビューティフル・ビームを部屋中に発散し、あなたのお肌に有害な物質の駆除を開始致します。 また、<美肌プリンプリン・エクストラ・ディメンション・コラーゲン・TA・MA・GO・HA・DA>も、お客様の手元にお届けした瞬間に<旬>を迎え、最高の美肌復活力を発揮する仕組みとなっており、その<旬>を過ぎた後は、風味・美肌復活力ともに、ただのプリンになり下がります。 そのため、いずれの商品も、開封後は購入したものとみなし、返品は受け付けておりません。なお、当商品の発送後、2日以内に代金50万円をお支払いいただけない場合は、お客様が勤務されている<滋賀無井商事株式会社>と協議のうえ、給与差し押さえに着手致します。」 |
その紙切れを見て、鳥寄さんはあっと驚いてしまいました。
この不景気に、会社に対して給与差し押さえの連絡が入ってしまうと、最悪リストラの対象とされてしまうかもしれません。
かといって、50万円もの大金を支払うためには、それこそ消費者金融に駆け込んで、借金をする以外には方法が見当たりません。
鳥寄さんは、どうしたらよいのでしょうか?
結論を先にいうと、送られてきた商品について代金を支払う必要もなければ、自費で返品する必要もなく、放っておいても給与の差し押さえがされることもありません。
鳥寄さんは、14日間商品を保管した後は、自由に処分してしまって差し支えがないのです。
以下、法的根拠を説明します。
ネガティブオプションとは、注文してもいない商品を勝手に送りつけ、「購入しないとの意思表示がなければ購入したものとみなす」とか、「購入しない場合は、お客様の費用で返品しない限り、購入したものとみなす」などと記載した通知書及び請求書によって、注文してもいない商品について代金を請求する手口です。
今回の鳥寄さんのケースもネガティブオプションに該当します。
そもそも、「返品をしない限りは購入したものとみなす」とか、「箱を開封した時点で購入したものとみなす」っといった紙切れが同封されているだけで、勝手に送りつけられてきた商品について、売買契約は成立しているといえるのでしょうか?
売買契約が成立しているか?という点についてはNOです。
民法(みんぽう)には、お互いが合意をしない限り、一方的に契約が成立することはないという原則があります。
今回のケースでは、一方的に商品を送りつけ、買うとも言っていないのに代金を請求しても、売買契約について合意があるとはいえず、代金の支払い義務は発生しません。
しかし、じゃあ、この商品が誰のモノなのかという点が問題になります。
勝手に送りつけてきたとはいえ、業者がただであげると言っていない以上、勝手に処分をしたら所有権侵害として問題がありそうです。
しかし、勝手に商品を送りつけた上に、いつまでも取りに来てくれない場合は、保管に困ってしまいます。
そこで、民法ではこのような、勝手に商品を送りつける悪質商法・ネガティブオプションには完全には対応できていないので、「特定商取引に関する法律(特定商取引法)」により、14日間保管をしていても業者が引き取りに来ない場合は、勝手に処分をして構わない、っという定めを設けました。
特定商取引法の条文は次の通りです。
第59条 販売業者は、売買契約の申込みを受けた場合におけるその申込みをした者及び売買契約を締結した場合におけるその購入者(以下この項において「申込者等」という。)以外の者に対して売買契約の申込みをし、かつ、その申込みに係る商品を送付した場合又は申込者等に対してその売買契約に係る商品以外の商品につき売買契約の申込みをし、かつ、その申込みに係る商品を送付した場合において、その商品の送付があつた日から起算して十四日を経過する日(その日が、その商品の送付を受けた者が販売業者に対してその商品の引取りの請求をした場合におけるその請求の日から起算して七日を経過する日後であるときは、その七日を経過する日)までに、その商品の送付を受けた者がその申込みにつき承諾をせず、かつ、販売業者がその商品の引取りをしないときは、その送付した商品の返還を請求することができない。 |
何が書いてあるかさっぱりわかりません。
もう少し、分解してみます。
4パターンに分けられます。
パターン1
販売業者は、「売買契約の申込みを受けた場合におけるその申込みをした者以外の者」に対して売買契約の申込みをし、かつ、その申込みに係る商品を送付した場合において、その商品の送付があつた日から起算して十四日を経過する日(その日が、その商品の送付を受けた者が販売業者に対してその商品の引取りの請求をした場合におけるその請求の日から起算して七日を経過する日後であるときは、その七日を経過する日)までに、その商品の送付を受けた者がその申込みにつき承諾をせず、かつ、販売業者がその商品の引取りをしないときは、その送付した商品の返還を請求することができない。
パターン2
販売業者は、「売買契約の申込みを受けた場合におけるその申込みをした者以外の者」に対して売買契約の申込みをし、かつ、申込者等に対して「その売買契約に係る商品以外の商品」につき売買契約の申込みをし、かつ、その申込みに係る商品を送付した場合において、その商品の送付があつた日から起算して十四日を経過する日(その日が、その商品の送付を受けた者が販売業者に対してその商品の引取りの請求をした場合におけるその請求の日から起算して七日を経過する日後であるときは、その七日を経過する日)までに、その商品の送付を受けた者がその申込みにつき承諾をせず、かつ、販売業者がその商品の引取りをしないときは、その送付した商品の返還を請求することができない。
パターン3
販売業者は、「売買契約を締結した場合におけるその購入者以外の者」に対して売買契約の申込みをし、かつ、その申込みに係る商品を送付した場合において、その商品の送付があつた日から起算して十四日を経過する日(その日が、その商品の送付を受けた者が販売業者に対してその商品の引取りの請求をした場合におけるその請求の日から起算して七日を経過する日後であるときは、その七日を経過する日)までに、その商品の送付を受けた者がその申込みにつき承諾をせず、かつ、販売業者がその商品の引取りをしないときは、その送付した商品の返還を請求することができない。
パターン4
販売業者は、「売買契約を締結した場合におけるその購入者以外の者」に対して売買契約の申込みをし、かつ、申込者等に対して「その売買契約に係る商品以外の商品」につき売買契約の申込みをし、かつ、その申込みに係る商品を送付した場合において、その商品の送付があつた日から起算して十四日を経過する日(その日が、その商品の送付を受けた者が販売業者に対してその商品の引取りの請求をした場合におけるその請求の日から起算して七日を経過する日後であるときは、その七日を経過する日)までに、その商品の送付を受けた者がその申込みにつき承諾をせず、かつ、販売業者がその商品の引取りをしないときは、その送付した商品の返還を請求することができない。
まだまだわかりづらいので、言い換え表現を加え、カッコ書きを一部省略します。
「売買契約の申込みを受けた場合におけるその申込みをした者以外の者」及び、「売買契約の申込みを受けた場合におけるその申込みをした者以外の者」は、「商品の注文をしていない人」っと言い換えます。
「売買契約の申込みをし、かつ、その申込みに係る商品を送付した場合」は、「注文されてもいない商品の売買契約をもちかけ、かつ、勝手にその商品を送付した場合」っと言い換えます。
販売業者が「売買契約の申し込みをし、」っという意味は、商品を買え、っと持ちかけることです。
また、販売業者が、「申込みに係る商品を送付した場合」とは、「勝手にその注文してもいない商品を送付した場合」を指します。
この場合の「申込みに係る商品」とは、業者が勝手に買え、っと申しこんだ商品を意味します。
勝手に送りつけられた被害者側が申し込んだわけもないので、この「申込みに係る商品」における、申し込んだ主体は、業者のほうです。
以上の言い換えをふまえると、特定商取引法第59条は以下のように翻訳?されます。
販売業者は、「商品の注文をしていない人」に対して、注文されてもいない商品の売買契約をもちかけ、かつ、勝手にその商品を送付した場合、その勝手に送られてきた商品の送付があつた日から起算して十四日を経過する日までに、商品を送りつけられた者が購入をせず、かつ、販売業者がその商品の引取りをしないときは、その送付した商品の返還を請求することができない。 |
まだまだ、読みにくいので、文章の頭とお尻だけ取り出します。
「販売業者は、その送付した商品の返還を請求することができない。」
どうやら、送りつけた商品を取り戻すことができない場合(つまり、勝手に送りつけられた側がその商品を返却しないでよい場合)について書いてあるようです。
じゃあ、どういう場合には送りつけられた商品を返却しないでよいのか?を再び追いかけていくと、注文していない商品については、14日間だけ保管をすれば、返却しないでもよいと書いてあることが読み取れます。
したがって、この特定商取引法59条によって、勝手に送りつけられた商品は、とりあえず14日だけ保管して、その後は自由に処分をしてしまってよいということになっているのです。
このネガティブオプション、商品の強制送付・強制購入は、代金の請求を会社に対してするぞ、っというなかば恐喝的な手口と組み合わされると、つい払ってしまうこともあるので注意が必要です。
怪しげな請求が来たら、真っ先に弁護士・司法書士に相談をしてください。
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