今回は、最高裁平成19年2月13日判決が、判決の理由としてかかげた法的根拠・理論構成についての問題点を検討します。
まずは、前回同様、最高裁平成19年2月13日判決(関係のない部分は一部省略)を見てみましょう。
最高裁平成19年2月13日判決 貸主と借主との間で基本契約が締結されていない場合において,第1の貸付けに係る債務の各弁済金のうち利息の制限額を超えて利息として支払われた部分を元本に充当すると過払金が発生し(以下,この過払金を「第1貸付け過払金」という。),その後,同一の貸主と借主との間に第2の貸付けに係る債務が発生したときには,その貸主と借主との間で,基本契約が締結されているのと同様の貸付けが繰り返されており,第1の貸付けの際にも第2の貸付けが想定されていたとか,その貸主と借主との間に第1貸付け過払金の充当に関する特約が存在するなどの特段の事情のない限り,第1貸付け過払金は,第1の貸付けに係る債務の各弁済が第2の貸付けの前にされたものであるか否かにかかわらず,第2の貸付けに係る債務には充当されないと解するのが相当である。 なぜなら,そのような特段の事情のない限り,第2の貸付けの前に,借主が,第1貸付け過払金を充当すべき債務として第2の貸付けに係る債務を指定するということは通常は考えられないし,第2の貸付けの以後であっても,第1貸付け過払金の存在を知った借主は,不当利得としてその返還を求めたり,第1貸付け過払金の返還請求権と第2の貸付けに係る債権とを相殺する可能性があるのであり,当然に借主が第1貸付け過払金を充当すべき債務として第2の貸付けに係る債務を指定したものと推認することはできないからである。 これを本件についてみるに,前記事実関係によれば,上告人と被上告人との間で基本契約は締結されておらず,本件第1貸付けに係る債務の各弁済金のうち利息の制限額を超えて利息として支払われた部分を元本に充当すると過払金が発生した平成8年10月31日の後に,本件第2貸付けに係る債務が発生したというのであるから,上記特段の事情のない限り,本件第1貸付けに係る債務の各弁済金のうち過払金となる部分は,本件第2貸付けに係る債務に充当されないというべきである。 |
赤字部分が、最高裁が、過払い金の計算方法について、取引が連続していない期間があった場合には、その期間で前後にわけて過払い金を計算せよという趣旨の判断をした法的根拠・理論構成にあたる部分です。
最高裁は、論理的とはおよそ言い難い解釈をし、このような判決を下しました。
最高裁は、「第2の貸付けの以後であっても,第1貸付け過払金の存在を知った借主は,不当利得としてその返還を求めたり,第1貸付け過払金の返還請求権と第2の貸付けに係る債権とを相殺する可能性がある」と表現しており、「相殺する可能性がある」から、当然には(過払い金と借入金を差引き清算処理をしてくれという旨の主張をしないでも)、既に発生していた過払い金が、後に再開された取引における貸付金には充当されないと判断しています。
「借主が、過払い金が発生しているのを知りつつも、あえて相殺しない場合が想定できる(相殺しない可能性がある)」のであれば、当然には(自動的には)、既に発生していた過払い金が、後に再開された取引における貸付金には充当されないとの論理的帰結になるといえますが、「相殺する可能性がある」のであれば、過払い金と、借入金を差し引き清算処理すべき、という結論に至るはずでしょう。
実際には、相殺しないことによって経済的負担が増大する結論をあえて選択する借り手は絶無といっていいほどマレであり、「相殺する可能性がある」から、当然には過払い金と借入金が差し引き清算処理はされないという結論は、およそ論理的とは言い難いものです。
また、自らが払い過ぎているという認識がそもそも無いにもかかわらず、その過払い金を、取引が再開された際の借入金に対して相殺をする可能性が有るだの無いだのを理由に司法判断を下している点も、完全に論理性が欠如しているとしかいいようがありません。
最高裁は、最高裁平成15年7月18日判決にて、民法489条及び491条を理由に、特に相殺の意思表示をしないでも(過払い金と借入金を差引き清算処理をしてくれという旨の主張をしないでも)、当然かつ自動的に、過払い金は、後になされる借入金への返済に充てられると判断していました。
参考条文 民法489条 弁済をする者及び弁済を受領する者がいずれも前条の規定による弁済の充当の指定をしないときは、次の各号の定めるところに従い、その弁済を充当する。 1.債務の中に弁済期にあるものと弁済期にないものとがあるときは、弁済期にあるものに先に充当する。 2.すべての債務が弁済期にあるとき、又は弁済期にないときは、債務者のために弁済の利益が多いものに先に充当する。 3.債務者のために弁済の利益が相等しいときは、弁済期が先に到来したもの又は先に到来すべきものに先に充当する。 4.前2号に掲げる事項が相等しい債務の弁済は、各債務の額に応じて充当する。 ※弁済の充当の指定をしないときは、「充当されない」のではなく、次の各号の定めるところに従い、「充当する」というのが民法の定めとなっている。 |
そして、この判断をした理由として、「同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継続的に貸付けとその返済が繰り返される金銭消費貸借取引においては,借主は,借入れ総額の減少を望み,複数の権利関係が発生するような事態が生じることは望まないのが通常と考えられることから,弁済金のうち制限超過部分を元本に充当した結果当該借入金債務が完済され,これに対する弁済の指定が無意味となる場合には,特段の事情のない限り,弁済当時存在する他の借入金債務に対する弁済を指定したものと推認することができる」としています。
つまり、民法489条や、491条を根拠にすれば、「相殺の意思表示がないこと」=「当然に返済(充当)」されるという法解釈が無理なくできたにもかかわらず、「相殺の意思表示がないこと」=「充当の指定がない」=「充当されない」と誤った解釈をしてしまったのです。
充当の指定がなかった場合には、充当をしたかったのか、それともしたくなかったのか、あるいは、できなかったのかを裁判所が推察して、一般人の大多数の合理的意思判断に反さないような結論が出されるべきです。
しかし、最高裁は平成19年2月13日判決において、「充当の指定がないこと」を、「充当するつもりがない」かのように扱い、結果として、弱者の権利を制限するにいたったのです。
このような論理性の欠如した最高裁判決には、全国の下級裁判所も疑問を持っており、この最高裁の判断と対立する判決も相当数出ています。
そして、このように判断の割れる紛争については、世論の盛り上がりによって誤りが是正されることもしばしばあるので、国民全員が当事者意識を持って、不当と考えられる司法判断に立ち向かっていく必要があるように思います。
所長 司法書士
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