会社法の誕生に伴い、株主に相続が発生した際に、経営に関与してほしくない相続人が取得した株式を買い取る制度ができました(相続人に対する株式の売渡請求)。しかし、この制度はよいことづくめではないのです。
13 相続人に対する株式売渡請求のメリット・デメリット
まずは、こんな事例を考えてみます。
「中抜建設株式会社」
発行済株式 500株 従業員30名
株主内訳
矢留気 有益(ヤルキ アリマス)450株…建設会社「中抜建設株式会社」の創業者で代表取締役社長。65歳。妻は一人息子を産むと同時に他界。
腹心 部下男(フクシン ブカオ)50株…矢留気 有益の盟友ともいえる部下で、「中抜建設株式会社」の創業者のもう一人。代表取締役副社長。60歳。妻とは離婚。
<その他登場人物>
矢留気 継男(ヤルキ ツグオ)…「矢留気 有益」の一人息子。会社を継ぐ気持ち十分。フィギュアの色塗りが得意。申し分のない跡取り。
腹心 紅蓮太(フクシン グレタ)…「腹心 部下男」の一人息子。粗暴なふるまいがたたり、何度か逮捕歴あり。荒くれ者。下戸。
<ケース1:「腹心 部下男」が亡くなる場合>
特に何らの相続対策をしなかった場合、「腹心 部下男」の株式は、荒くれ者の「腹心 紅蓮太」に相続される。
荒くれ者の「紅蓮太」に少しでも株を握られようものなら、どれだけ荒らされるかわからない。
そうなっては困るので、会社法第174条の、「相続人等に対する売渡しの請求に関する定款の定め」を司法書士に導入してもらった。
「紅蓮太」に、相続された「中抜建設株式会社」の株式50株に対し、買取の対価として300万円を支払うと打診したところ、飛びついてきたので、無事に「紅蓮太」が株式を保有することはなくなった。
ヤッタ!ウマクイッタ!バンザーイ!(グッドエンド)
<ケース2:「矢留気 有益」が亡くなる場合>
特に何らの相続対策をしなかった場合、「矢留気 有益」の株式は順当に、「継男」に相続される。
しかし、ケース1のように、「腹心 部下男」が先に死んだときに、荒くれ者の「紅蓮太」が株式を相続することを避けるべく、既に会社法第174条の、「相続人等に対する売渡しの請求に関する定款の定め」を司法書士に導入してもらっていた。
ところが…
部下男「ふぇっふぇっふぇ…有益が死んだか…有益は継男に株式を相続させたいと考えていたようだが、ぐふふ…そうはいかんのだよ!!」
なんと、「腹心 部下男」は、「矢留気 継男」に相続された株式450株に対して、相続人等に対する株式の売渡請求をしかけてきた!
そして「矢留気 継男」に対して、買取の対価として、二束三文の小遣い銭を提示してきた。
この売渡請求については、相続人から何株買い取るかを株主総会特別決議(309条2項決議)で決めるのであるが、この株主総会について、相続人は、議決権を行使できない法律になっており、(会社法175条2項)さらにいえば、買取価格についてはこの株主総会で決定する仕組みにはなっていないので、経営判断(=取締役の意向)によっていくらで買い取るかが定まることとなる。
二束三文のはした金で株式を没収されるような要求はのめない「継男」は、裁判所に「売買価格の決定の申立て」(会社法177条2項)をした。
部下男「ふぇっふぇっふぇ…。こちらから裁判所へ売買価格の決定の申し立てをせずとも、矢留気 継男の方から売買価格の決定の申立てをしてくるとは。飛んで火に入る夏の虫よのう」
なんと、「腹心 部下男」は、「矢留気 有益」の死ぬ直前に、東京オリンピック関連の大規模な都市再開発に備えるなどとして、巨額の融資を組んでおり、貸借対照表上は負債が大きく見える会社に仕立てたり、経費のかさ増しで利益もあまり出ていないように見える会社に帳簿操作を施していた。
このように資産価値もなく、利益も生み出せていないように見える会社の株式の売買価格をはたして裁判所が適正に判定しうるのか…
裁判所は、二束三文の価格を株式の売買価格として正式決定し、会社は「腹心 部下男」に乗っ取られたのであった(バッドエンド)。
なお、相続人である「矢留気 継男」が会社法177条2項に定める「売買価格の決定の申立て」を、会社側からの「相続人等に対する売渡しの請求」がなされてから20日以内に申し立てず、かつ、会社側からも「売買価格の決定の申立て」がなされなければ、自動的に買取請求は破談となるため(会社法177条5項)、相続人としても、「売買価格の決定の申立て」をするかはメリット・デメリットがあるということです。もちろん、会社側は、相続人に対して株式売渡請求権を行使してくる以上、仮に相続人サイドが裁判所へ「売買価格の決定の申立て」をしてこなくとも、会社側から裁判所へ「売買価格の決定の申立て」をしてくるでしょうから、自動的に買取が破談になるということは本ケース2の事例では期待できません。
会社法第174条の「相続人等に対する売渡しの請求に関する定款の定め」は、生存した側の株主の意向が反映される仕組みとなっているため、制度設計の際に想定した死亡順序と異なる順序で相続が発生した場合に、うまく機能しないことがありえます。
とりあえず、導入しておいた方が良いっというほどの万能規定ではないので、実情に合った導入が重要です。
<まとめ 「相続人等に対する売渡しの請求に関する定款の定め」>
条文を一部加工してあります。読みやすくするために、「相続」に限定し、その他の一般承継の場合を外しているほか、文意を変えない程度で部分省略や読み替え・置き換えをしています。
第百七十四条 株式会社は、相続により当該株式会社の株式(譲渡制限株式に限る。)を取得した者に対し、当該株式を当該株式会社に売り渡すことを請求することができる旨を定款で定めることができる。
この他、財源規制として、会社法第461条1項5号がある。
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