株主が一人、取締役も一人の標準的な会社において、新株発行増資をしたい。簡単じゃーん。会社の通帳にお金を振り込んだ日付で書類を作ればいいんでしょ?えっ?通らない?なにー!
15 増資・新株発行と添付書類の日付(2014.9.30執筆)
今回は、株主が一人、代表取締役も一人のシンプルな会社を取り扱います。
一件シンプルでも、なんとなく書類を作成したらまず間違いなく補正を食らいます。
新株発行には手順があり、それを無視した日付になっていると、登記が通らないのです。
株主も代表取締役も自分一人なのに、手順の前後とか言われても…っとの思いもありますが、ひっかかるとうっとうしいだけですので、添付書類の日付については重要です。
まずは、非公開会社の新株発行増資の簡単な流れを説明します(今回は譲渡制限のある新株を発行し、株主総会議事録を2通添付するベーシックなパターン。上級者向け?の総数引受契約を用いる方法は末筆にてちょろちょろっとだけふれておきます)。
1 会社として、新株発行増資の企画をする。何株発行し、いくら増資するか、いつまでに払い込んでもらうか等を決め、株主総会の決議をとる(募集事項の決議。199条2項。本事例では非公開会社なので特別決議)。
2 新株を引き受けてくれそうな人を勧誘し、申し込んでもらう。
※申込をした時点では、確定的に新株を引き受けられるわけではなく、会社側から新株の引受人として採用してもらうプロセスがある。
3 会社は申し込んできた人の中から、実際に出資をしてもらう人を株主総会にて決める(割当決議。204条2項。本事例では非公開会社なので、特別決議)。
4 見事新株引受人に採用された人には、何株当選しましたので、払込期日までに払って下さいと連絡をする。この連絡は、払込期日の前日(期間を定めた場合は、その初日)までにする必要がある(払込期日の当日、いきなり払えって言われても無理だし)。
5 無事に払込期日がきたら、払い込まれていた部分だけ新株発行増資の登記をする。
おおむねこんな流れになります。
それでは以下、各手続きの詳細やら登記の添付書類の日付を説明します。
1 新株発行を企画する。具体的には、何株発行し、ひと株をいくらにし、総額いくら増資するか、いつまでに振込を完了するのか(払込期日)などを株主総会決議で決めます。
※募集事項決定の株主総会議事録=第1の議事録とします。
この第1の議事録の日付と、同議事録中に記載することとなる払込期日は同じ日にすることはできません。
払込期日の前日(期間を定めた場合は、その初日)までに、増資を引き受けたいと申し込んだ者に対して、引き受けてもらう株式の数を通知しなければならないという会社法204条3項の定めがあるからです。
増資への応募者が殺到した場合を考えてみれば当然で、増資に応募したものの、会社経営陣の裁量で当選しない場合があり、この場合に、新株の割当数を教えてもらえなかったら、いくら払ってよいのかわかりませんし、株主になれないのにお金を振り込んでしまう等の不具合がでてくるからです。
第1の議事録(募集事項決定の議事録)作成のポイントとしては、同議事録中に記載する払込期日の日付は、募集事項決定の議事録の日付より1日以上後でなければ補正になる。
2 新株を引き受けてくれそうな人を勧誘し、申し込んでもらう。
この新株発行増資への申込書(募集株式の申込書)は新株発行増資登記の添付書類となりますが、日付は当然、第1の議事録の決議日と同日から次に説明する第2の議事録決議日(割当決定の議事録)と同日までの間でなければなりません。
3 会社は申し込んできた人の中から、実際に出資をしてもらう人を株主総会にて決める(割当決議。添付書類としては第2の議事録)。
申込のない全くの赤の他人に新株を押し売り的に割り当てるわけにはいきません(当たり前です)。
申し込んできた人の中から、会社側の裁量で新株を割り当てます。
そうすると、第2の議事録(割当決議)の日付は、募集株式の申込書の日付と同日かそれより後であり、かつ、増資の申込者に対して割当数は払込期日の前日までに通知しなければなりませんでしたので(会社法204条3項)、払込期日よりは1日以上前でなければならないということになります。
4 委任状の日付
これは、登記原因が確定的に生じた日より以降でなければならないという法務局ルールがあるため(法律には規定がない)、お客様から委任状を取った日付を書くと登記は通りません。登記を申請する日付にしておくのが簡単かつ無難です。
実務的な流れとしては、増資実行日(会社の口座にお金を入金する日)が先に決まるでしょうから、この前日あたりを割当決定決議日として割当決定議事録を作成し、この前日あたりを募集株式申込書の日付とし、さらにその前日あたりを募集事項決定議事録の日付としておけばよいでしょう。
新株引受人から入金された出資金は会社のために使ってよいお金なので、通帳の記載から、登記前に出資金に手をつけたことが明らかになっていても登記は却下されません。
また、株主が複数いて、賛成多数が割れるようなケースでは、登記には必要なくても、株主全員が集まってくれないのであれば、招集通知なんかも作成しなければいけない事案もあったり複雑です。
各書類の日付も良い具合に適当に記載できないこともあるため、神経使います。
<総数引受契約を利用して新株発行増資をする方法>
この場合、募集事項決定議事録の日付、払込期日の日付を同日にできちゃいます。
会社法205条で、会社法204条(割当に関するルール。204条3項に、払込日前日までに会社が選んだ新株引受人へ連絡せよとの定めがある)と会社法203条(申込に関するルール)が除外されるからです。
総数引受方式の場合、経営陣の増資の企画や総数引受契約の締結段階で、割当先が不特定多数ではなく、誰に新たに新株を引き受けてもらうかが既に確定しているから、多数の増資希望者を募り、その中から、引受人を選ぶプロセス(=割当のプロセス)が存在しないからです。
また、申込に関する203条のルールが除外されるのも、総数引受方式の場合、引き受けの条件は契約により定まるので、その契約の中で処理すればよいからといえます。
したがって、総数引受契約を利用する場合は、割当事項決定の議事録の添付がなくても新株発行増資の登記が通ります(不要になるのは、割当事項決定の方の議事録であり、募集事項の決定議事録は199条に定めがあるから、205条で除外されてない)。
ただし、割当先について株主の了解を得る必要があるため、募集事項について株主の賛同を得るための株主総会において、引受人の名前・引き受ける株数・払い込む金額も決議事項として載せておく必要があります。これがない場合、やはり割当先について株主総会の決議が必要となります。
また、総数引受方式の場合、株式の申込証の提出は不要ですが、その代わりに、総数引受契約書が必要となります。
参考条文 一部省略
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