44 無議決権株式を発行している場合の登記手続き
外部投資家からの出資を受ける際に、配当を優先して受けられる代わりに、議決権は全て無いものとして増資を実行することがあります。
完全無議決権株式等といわれています。
通常の株主総会においては議決権を一切行使できません。
  しかしながら、強行法規によって、完全無議決権株主にも議決権があり、完全無議決権種類株主総会の決議を経ないと有効にならない手続きもあります。
  
  無議決権種類株主総会の開催義務があるケースが存在するということです。
  
  当然、この場合の無議決権種類株主総会議事録は、登記の添付書類にもなります。
  
  例えば、発行可能株式総数又は発行可能種類株式総数を増加させる手続には、完全無議決権株主総会の決議も必要となります(会社法第322条3項)。
  
  定款で完全無議決権の定めをしても、その無議決権種類株主総会の開催・承認義務を奪うことができないケースには次のものがあります。
  
  <定款で無議決権種類株主総会の決議省略や開催省略を定められない手続>
  「株式の種類の追加」
  「株式の内容の変更」
  「発行可能株式総数の増加」
  「発行可能種類株式総数の増加」
  「ある種類株式に譲渡制限を付けるとき」
  「ある種類株式に全部取得条項を付けるとき」
  「ある種類株式に取得条項を付けるとき」
  
  
  そのため登記簿に、
  
  「議決権に関する定め
  無議決権株式を有する株主は、当会社の株主総会において議決権を行使することはできない。当会社が、会社法第322条第1項に規定する行為をする場合においては、
法令に別段の定めがある場合を除くほか(※この部分があるので、無議決権種類株主総会の開催省略は一部不可能となっている)、当該種類株主総会の決議を要しない。」
  
  との定めをしても、上記の場合には、普通株主総会と無議決権種類株主総会のダブルの承認が必要ということになります。
  
  
  
  
  また、新株発行をする際にも、通常の会社の場合は、普通株式の方も、無議決権株式の方も共に譲渡制限がかかってることが多いですが、譲渡制限のある会社の場合、会社法199条4項によって、新規に発行する株式が普通株式なら種類株式としての普通株式総会の決議も必要となります。他方、新規に発行する株式が無議決権株式なら、種類株式としての無議決権株式総会において議決権を行使できる株主がいないため、199条4項ただし書により無議決権株式総会は開催しないで良いということとなります。
  
  そのため、定款には、
  
  「当会社は、会社法第199条第4項、第238条第4項に定める種類株主総会の決議を要しない。」
  
  という定めも盛り込んでおいた方が良いでしょう。
  
  この規定がない場合は、(全体としての、いわゆる通常の)株主総会議事録と、(種類株主としての、ネーミング的には)普通株主総会議事録が新株発行の添付書類となります。
  
  
  第322条(一部省略)
  1項 種類株式発行会社が次に掲げる行為をする場合において、ある種類の株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるときは、当該行為は、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議がなければ、その効力を生じない。ただし、当該種類株主総会において議決権を行使することができる種類株主が存しない場合は、この限りでない。
  
    - 一 次に掲げる事項についての定款の変更(第111条第一項又は第二項に規定するものを除く。)
    
      - イ 株式の種類の追加
 
      - ロ 株式の内容の変更
 
      - ハ 発行可能株式総数又は発行可能種類株式総数の増加
 
    
     
    - 二 株式の併合又は株式の分割
 
    - 三 第185条に規定する株式無償割当て
 
    - 四 当該株式会社の株式を引き受ける者の募集(第202条第1項各号に掲げる事項を定めるものに限る。)
 
    - 五 当該株式会社の新株予約権を引き受ける者の募集(第241条第1項各号に掲げる事項を定めるものに限る。)
    
- 六 第277条に規定する新株予約権無償割当て
 
    - 七 合併
 
    - 八 吸収分割
 
    - 九 吸収分割による他の会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部の承継
 
    - 十 新設分割
 
    - 十一 株式交換
 
    - 十二 株式交換による他の株式会社の発行済株式全部の取得
 
    - 十三 株式移転
 
   
  2項 種類株式発行会社は、ある種類の株式の内容として、前項の規定による種類株主総会の決議を要しない旨を定款で定めることができる
(※ただし例外が次の3項にある。全ての議案について、種類株主総会の開催省略・決議省略はできないということ)。
  
  3項 第1項の規定は、前項の規定による定款の定めがある種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会については、適用しない。ただし、第1項第一号に規定する定款の変更(単元株式数についてのものを除く。)を行う場合は、この限りでない。
  
  4項 ある種類の株式の発行後に定款を変更して当該種類の株式について第2項の規定による定款の定めを設けようとするときは、当該種類の種類株主全員の同意を得なければならない。
  
(募集事項の決定)
  
    第百九十九条
    1項 株式会社は、その発行する株式又はその処分する自己株式を引き受ける者の募集をしようとするときは、その都度、募集株式(当該募集に応じてこれらの株式の引受けの申込みをした者に対して割り当てる株式をいう。以下この節において同じ。)について次に掲げる事項を定めなければならない。
    
    
      一 募集株式の数(種類株式発行会社にあっては、募集株式の種類及び数。以下この節において同じ。)
      
     
    
      二 募集株式の払込金額(募集株式一株と引換えに払い込む金銭又は給付する金銭以外の財産の額をいう。以下この節において同じ。)又はその算定方法
      
     
    
      三 金銭以外の財産を出資の目的とするときは、その旨並びに当該財産の内容及び価額
      
     
    
      四 募集株式と引換えにする金銭の払込み又は前号の財産の給付の期日又はその期間
      
     
    
      五 株式を発行するときは、増加する資本金及び資本準備金に関する事項
      
     
   
  
    2項 前項各号に掲げる事項(以下この節において「募集事項」という。)の決定は、株主総会の決議によらなければならない。
    
   
  
    3項 第一項第二号の払込金額が募集株式を引き受ける者に特に有利な金額である場合には、取締役は、前項の株主総会において、当該払込金額でその者の募集をすることを必要とする理由を説明しなければならない。
    
   
  
    4項 種類株式発行会社において、第一項第一号の募集株式の種類が譲渡制限株式であるときは、当該種類の株式に関する募集事項の決定は、当該種類の株式を引き受ける者の募集について当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議を要しない旨の定款の定めがある場合を除き、当該種類株主総会の決議がなければ、その効力を生じない。ただし、当該種類株主総会において議決権を行使することができる種類株主が存しない場合は、この限りでない。
    
   
  
    5項 募集事項は、第一項の募集ごとに、均等に定めなければならない。
   
  
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